第50回NHK講談大会のトリが神田松鯉先生で「無筆の出世」でした。
このお話は、文字の読めない男が「この者を斬ってよい」と書かれた手紙を届けにいく最中に偶然助けられ、勉学に励むようになる。そうして出世したのちに、手紙を書いた前の主人を呼び出して「この手紙が励みになった。感謝している」と告げて立派な役を与える、というもの。
めちゃくちゃ端折っているのできちんとした内容はNHKのアーカイブをご覧くださいまし。
もうすぐで殺されるかもしれなかった原因を作った人に感謝を伝えるなんて、なんで!?と一瞬思ったのですが、とても講談らしいお話しだと気が付きました。
一筋縄でいかない善悪の判断や道徳。
人との関わりのなかでみえる人間らしさ。
ただ人を許せという説教ではなく、謙虚な姿勢で居続けた人間が上に立てたということ。
それにこの前の主人、これから頑張って役を果たして尽くすだろうなぁと想像すると上に立つ人間として最適のふるまいだよなとも思います。
よいことはよいこと、悪いことは悪いこと、と単純にはいかない人間の生活に辟易していたところに私にとっては講談が救いになったんだったと改めて思いました。
人権意識の高まりや多様性、個の尊重が叫ばれる現代だけど、その画一的な理想像に社会の仕組みや現実が全く追いついていないんですよね。
その理想像が叫ばれるようになった過程を体験しておらず、現代は移行期間であることに実感がなく、理想像だけを守るものとして学び続けてしまうとそこから外れた時にすごく辛い。
講談は理想像や綺麗事であっても、スカッとしたり頑張ろうと思えたりするエンタメの力がある。
画一的な理想像ではなくて人間くさい生き様に力をもらって正しく生きようと思える。
講談をまだ知らない人でもこうした救いというかヒントや新たな視点を求めてる人ってたくさんいるはず。
この現代にこのような話を説得力を持ってできる人ってあまりいないんじゃないか??
松鯉先生の高座を聞けたこと、テレビとはいえ本当に貴重な体験だなぁとしみじみ。
芸は人なりってこういうことなんだなぁ。
最後の挨拶で松鯉先生が言った「講談は不滅でございます!」がなんと力強く心強いことか。
誰しも大変であろうコロナ禍のなか、記念すべき第50回NHK講談大会は講談の明るい未来を信じることができました。