海底の先

日常や本、映画などで心が動いた瞬間を文章にします。

海堂尊『コロナ黙示録』感想

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 「世界初の新型コロナウイルス小説」

新型コロナはリスキーな目下の問題なのに、長編小説を書きあげてしまうだなんて速筆の海堂尊先生だからこその作品である。

 

チーム・バチスタの栄光』からのファンとしては帯に書かれている登場人物を目にするだけでニヤニヤが止まらない。

田口医師に無理難題が押し付けられるという展開は何度起こってもキャッチーで、それはもう読者にとっては実績ある探偵事務所に奇妙な事件が舞い込むのと同じようなドキドキ感を味わうことができるのである。

 

その無理難題に今回はかなりのキナ臭さが漂う。いや、いつもキナ臭い無理難題ではあるが類が違う。どうなるんだろうかと一抹の不安を抱えていると、速水がいる北海道もバタバタし始め、なんだかいつも得体の知れない彦根やその周辺の活動、さらには「安保首相」がいる総理官邸での度重なるスキャンダル、そうだ五輪もあるぞ、さぁそこに豪華クルーズ船でのパンデミックが始まる。

 

海堂尊先生、またもや大風呂敷を広げすぎではないですか!?!?

 

どの目線なのか自分でもツッコミたくなるが、心配になってしまう。それに「安保首相」周辺の描写については首相から離れた目線にならざるを得ないからか感情が乗らない。書いている本はエンタメであるというようなことを海堂先生がどこかのインタビューでおっしゃっていたのを信じて読み続けた。

いやはやどうなるんだろうかこれ……

 

もちろん読者はそんな不安は持たなくてよかった。ついていけないところがあったら流し読みでもいい。とにかく読者は全員最後まで読もう、めちゃくちゃ面白かった。

 

あと「すずめ四天王」好きにとってはエモすぎる描写が各所にあります。いやぁよかった……

 

語弊のある表現にはなるが、海堂センセは一体これをどこまで本気で書いているんだろうか。この『コロナ黙示録』のなかで出てくる「イケメン内科医」の随筆のような奇妙さをこの本自体に途中まで感じていた。「終田千粒」のくだりなんかもこの本のことなのではないかと邪推ができる。各所で強い主張をする登場人物がいたかと思えば、それを俯瞰してみる登場人物もいたりする。

 

モチーフにされていると想像できる政治的事件周辺はあまりにもキナ臭すぎて内容が把握しにくく、報道を見ているのも辛いと感じたのを思い出した。恥ずかしながらも私は目を逸らしていたことを思い出した。モチーフについて詳しくないので私はこの本からなにかを取りこぼしている。

 

『コロナ黙示録』はフィクションだ。そんなことは当然のことだ。だけれども、フィクションから現実のことにふと思いを巡らすのも私にとってはよくあることだ。

 

それにしても、海堂尊先生の頭のなかは一体どうなっているんだろうか……