病理医ヤンデル先生の選書コーナーで出会ったエッセイ集である。
どこでもない場所……このワードで脳内でヒットする記憶があった。
舞城王太郎の『煙か土か食い物』の序盤の「大体このアルバムのタイトルだってありきたりだけど超いいじゃないか。ミドルオブノーウェア。どこでもない場所。大体今俺のいる場所だってどこなんだ?」……
俺のいる場所はこんなところじゃないという具体的な感傷としてではなく、呆然とするようなもっとぼんやりとした概念としてのイメージが「どこでもない場所」というワードにあって、印象に残っていた。
そしてこの本を手に取った、それは正解だったと読んでいて思った。
このエッセイからは、自分の感情を忠実に言葉にしているという印象を受けた。
人間の感情というものは自らでも分からないことがあって、かつ感情というのは複雑で言葉のなかに落とし込むと少なからず(あるいは多く)の誤差がどうしてもあるものだという感覚が私にはずっとある。
それでも自分の感情を見つめてゆっくりと言葉に落とし込んで、自分の存在がそこにあることを静かに認めるような印象を受けた。
そんな文章はぶっ飛んだことを言っていたとしても私の頭の中では淡々と穏やかに感情の形が空間の中から削りだされるように描かれた。
そしてその穏やかな中に時折ある種の切実さが心に落とされる。
……抽象的な感想のうえに私の文章力がないゆえに意味が分からないものになりつつあるのでここで具体を……。
著者のことをなにも知らずに読んでいたのだが、最後の紹介でNHKのかの有名な広報ツイートをしていた人だと知り「えっマジ!?」とそれまでの穏やかさをぶん投げて俗っぽい驚き方をしてしてしまった。
いやーびっくり。