海底の先

日常や本、映画などで心が動いた瞬間を文章にします。

『マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学するII』感想

f:id:a2019-09-24:20200504005035j:image

 

 
この本は、「欲望の時代の哲学2020 マルクス・ガブリエル NY思索ドキュメント」というNHKの番組から生まれたものである。2020年2月25日から3月24日にかけて5回に分けて放送された。この番組は主張や講義ではなくマルクス・ガブリエルというドイツのボン大学教授の哲学者がNYでNHKのスタッフ、そしてTⅤ前の日本にいる私たちに向けて語る思索ドキュメントである。情報そのものを得る番組というより「欲望」をはじめとした様々なことについて考える取っ掛かりを与えてくれ、ガブリエルの語り口や間に挟まれるイメージ映像・編集によって頭の中のギアがあがっていくような刺激的な番組だった。哲学に興味はあれど、知識はほとんどない私は難しいと思うような話もあったがそれも面白いと思えた。なんだか良くない表現になってしまうが、瞬間的な快楽みたいなものが私にはあった。
 
 
 
本のなかでは、作家や経営コンサルタントとの対談は取り上げられず、少し異なったまとまりかたとなっている。対談も読みたかったな~~!
 
本という形態になると(私にとっての)瞬間的な快楽としてではなく、自分の力で読み進めてゆっくり考えることができる。小見出しが多くつけられていて分かりやすくまとまっている本だ。けれど、どうしても「思考感覚」というのが感覚として分からない。「人間の感覚と思考のあいだには明確なカテゴリー上の違いがある」という「伝統的な考え方」のほうがしっくりくる……と思ってから、あれ、しっくりくるとか感覚として分からないとか、思考を感覚そのものとして自分は飲み込もうとしているな?これが「思考感覚」か?と思う。合ってる???分からない……
 
 
 
そして時々、言いすぎな表現なのではと思う箇所をどう捉えようか迷った。TⅤ番組として観たときもぼんやり考えていた。高層ビルから夜景をスマホで撮るシーンや「なぜアメリカで働かないのか」という問いに「母国で良い職を持っている」と答えるシーン(TⅤ番組を観た記憶なので間違っていたらごめんなさい)にガブリエルという個人と、哲学などにおける語りの表現とが少し離れているように感じた。本における丸山俊一氏の「終章」でその迷いはかなり解くことができた。
 
 
 
さて、2020年5月現在は新型コロナによって世界がゆらぎ、未来の不安が大きい情勢である。新型コロナ以前の番組、本であるが私たちがどう行動すべきかにおいて示唆に富む内容だ。「自由」とは、「民主主義」とは、「欲望」とはなにか。SNSにおける断絶の自覚と、SNSをどう使うか。斎藤幸平氏と語られた「気候変動」における社会の動きはそのまま「新型コロナ」に当てはめられるのかもしれないし、日本における「特殊な社会的規範」は新型コロナに伴う自粛によって色濃くなっている。厳しい状況下であろうと、哲学を手に入れて自分自身で思索して未来を歩んでいきたい。歩んでいかねばならない。