一九四〇年。少しずつ、戦争の足音が日本に近づいてきた頃。
聡子(蒼井優)は貿易会社を営む福原優作(高橋一生)とともに、神戸で瀟洒な洋館で暮らしていた。
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満州から帰ってきた夫の優作の様子がおかしい、なにか隠している……聡子は疑念を持つようになる。
今まで通りの穏やかで幸福な生活が変化していく。
というように映画は始まります。
映画『ロマンスドール』でも夫婦役を演じた蒼井優と高橋一生が再タッグを組むということで気になって観てきました。
『スパイの妻』は昭和の舞台女優のような独特の台詞回しで物語が進んでいきます。それでも、登場人物の説得力がある。
現実にいそうという意味での説得力ではなく、ファンタジーの要素のある創られた世界の中でキャラが立っていて人間が存在しているという意味での説得力を感じました。
夫婦が同じ領域のなかで尊敬し尊重しあっているのがすごく良い。
物語の序盤の聡子は、少女のように天真爛漫な姿が描かれます。
それでありながら、聡子の「優作と比べて自分がバカみたいに思える」という主旨の発言に対して君はバカじゃないよとごく自然に優作が返すシーンがとても印象的でした。
聡子と優作は映画の趣味を共有しています。映画の世界観を一緒に楽しんで語れるということは、同じレベルの教養があり、特に当時としては新しいものも取り入れていくことができるということだと思います。
物語の後半の聡子の大胆な行動には目を見張るものがあります。優作と同じチームとして優作を凌駕するレベルで物事を考えて行動していきます。
1940年にこんな女性がいるのだろうか?いたとしたら一体どんな教育を受けていたのか?聡子がどのように育ってきたかは詳しくは描かれていません。
独特なセリフ回しのある『スパイの妻』の創られた世界の中で、自由に物事を考えて行動していく聡子はとても清々しい存在でした。この時代に特殊な存在ではなく、こんな女性がいたっていいじゃないか、いてほしい。
聡子と優作は「男として」「女として」ではなく、ひとりの人と人としてフラットな状態で関われる夫婦です。お互いへの愛情はすれ違いやエゴを生みながらも、なににも囚われないひどく純粋な状態でした。
最後までそれを信じられた幸せな夫婦であったと私は思うよ。